「一から十までデタラメ」「もう研究者生命は終わり」国内初のHPVワクチン副反応大規模調査を行った疫学研究者が指摘する相手

HPVワクチンの「薬害」と「有用性(有効性と安全性)」をめぐる訴訟で焦点となっている疫学調査がある。同ワクチンの副反応について名古屋市が2015年に行った3万人規模の大規模な疫学調査「名古屋スタディ」だ。この調査ではワクチン接種者と非接種者の症状に有意な差が検出されず、薬害ではないという結果となった。ところが、それで一件落着とはならず長期の大規模訴訟となっている。なぜなのか? キーマンに聞いた。
鈴木エイト 2025.03.06
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 子宮頸がんなどHPV(ヒトパピローマウイルス)による様々ながんの罹患を予防するワクチンとして知られるHPVワクチン。将来の子宮頸がんワクチン罹患を防ぐ目的で、10代女児への接種が行われてきた。

鈴木貞夫教授(名古屋市立大学)

鈴木貞夫教授(名古屋市立大学)

 現在も小学6年生から高校1年の女子が定期接種の対象年齢ととなっており、厚労省によって積極的勧奨がなされている。一方、同ワクチンによって深刻な副反応被害を受けたとして集団訴訟も起こっている。対象年齢の子どもを持つ保護者にとって気がかりなのは副反応への懸念であろう。

 だが、同ワクチンの安全性については10年前に国内で実施された大規模な疫学調査によって担保されている。

 一方、HPVワクチンによる薬害を主張する原告サイドは、この疫学調査の結果について否定的な見解を示している。

 HPVワクチン/子宮頸がんワクチンの副反応をめぐる疫学調査「名古屋スタディ」を行ったのが、日本における疫学研究の専門家である鈴木貞夫教授(名古屋市立大学)だ。これまで何度か同裁判を傍聴しているという鈴木教授にインタビュー取材を行った。

 取材日は2月15日、zoomで話を伺った。時系列で言うと、2月10日に東京地裁で被告側申請専門家証人の中村好一名誉教授への主尋問が行われた期日の後になる。

 インタビュー取材に先立つメールのやり取りで、事前に鈴木教授からいただいたのは以下の内容だ。

「名古屋市から依頼されたHPVワクチンの疫学研究に『名古屋スタディ』と命名し、出版したことで薬害裁判の当事者になりました。すでに意見書は提出してあります。この研究は,名古屋市からの請負いですので、こちらが主体的に研究結果を曲げる理由や動機はありませんし、もし、そんなことをしたのであれば、公職を追放されても仕方がないと思っています。それを向こうにあてはめれば分かるとおり、八重・椿両氏は専門知識を使用して間違ったことをしているということで、論文は撤回、社会的制裁が必要というのが私の考えです」

 ぜひ鈴木教授にインタビュー取材をしたいと申し込んだ。鈴木教授は、被告側申請の専門家証人として証言した角田郁生氏と「立場は同じ」として取材を受諾。「むしろ問題を多くの人が知るようになった方が良いっていうことが私の個人的な考え」と立場を明確にした。

――2月10日の東京地裁でのHPVワクチン訴訟にも傍聴に来ておられました。傍聴した感想を聞かせてください。

「中村先生はすごくうまくお話をされました。私が証人として立つ可能性もあったわけですが、中村先生が立たれたということは、私以外にも私と同じ考えの人がいるということなんですよね。だけど向こうは、私の感想ですけど、結局椿先生が立つしかなかったと。ああいう考え方をしている人はおそらく他にいない。それをどう言うかは別問題として、肌感覚的にはそうです。‶研究者生命を脅かすような〟と中村先生がおっしゃった通り、あれは一般的な言葉で言うと‶デタラメ〟です。私はずっとそれを‶比較妥当性がない〟という言葉で言っていたんですけど。比較妥当性がない研究をしたら、結論はデタラメですという話なんだけど、デタラメというのを科学者が言うってことに関してはいろいろな障害があるので、講演会でクローズドの時には‶それを翻訳するとデタラメという意味です〟というくらいは言いますけど…。」

――そこは裁判で中村先生がはっきりおっしゃったということは、かなり強いということですよね。

「はい。僕たちは全体的に科学のフィールドの話しかしないので。中村先生が今回良かったのは科学プラス、先生が今まで培ってきたエキスパートとしての距離感や肌感覚、あるいは価値観といったそういったものを言っていただいて。最後に青木先生が出てきたくだりも本当に素晴らしいと思いましたね」

――鈴木先生の師匠に当たる方ですよね。

「あれは面と向かって一回言われたこともあるんですよ。嬉しくて、やってよかったなという気がしたのですが、中村先生に非常に高く評価していただいているということで、ありがたいと思っています」

――名古屋スタディに関してですが、この裁判の焦点、中心的なところに置かれて審理、議論されていくと思うのですが、鈴木先生の論文、名古屋スタディに関する調査が2016年で発表が2018年という理解でよろしいでしょうか?

「調査は2015年ですね。2015年の9月から10月ぐらいまでデータを集めて、12月に速報を一回出しているんですよ。‶12月の速報に間に合うように〟ということで、かなり急いでやった。で、その速報が向こうからの圧力で潰されたという経緯です。訴訟が2016年だから、15年度から16年度に変わった段階で大きくガラッと変わって、私は本当にやりにくかった。2016年に訴訟が起きたから、いろんな意味で名古屋スタディに圧力がかかった。あまり私は表だって言っていないけど、論文を書くことに対しては最初の約束がありますよね。私が論文書くという約束で引き受けているので。だからどんなに状況が悪くなっても〝書いても大丈夫ですか?〟という訊き方は一回もしてないです。そういうことを言って〝やめてください〟と言われるのが嫌だから。だからずっと出して、論文が落ち続けて、私たちはすごく大事なことだと思ってたから、いい雑誌から投稿しているんだけど、出版社から見たら当たり前の結果なんですよ、これは。だからもう有名雑誌とかことごとく落ちて…。論文掲載が遅いのは、若干、心が折れ気味だったので、それくらい時間がかかった。2015年から2018年頭だから、もう丸々2年以上掛かっているんですよ。そういう経緯です」

――このHPVワクチン訴訟の裁判自体への思い、この訴訟が起こされていること自体への受け止めについて。

「私はこのワクチンについて、全く知識のない状況で引き受けたわけです。最初から立場があれば私のところに依頼は来なかったと思いますよ。私が立候補したんじゃなくて、名古屋市が私のことを選んだわけです。研究をやってみたら、データを見る前にどのくらいの結果が出るかなという期待というか予想はあったのですが、それよりもうんと低い、〝何の関連もない〟というのがポンと出てきてしまったと。皆、関連があると思っていて、そのうえで実際データを取って解析しました、でも関連は出ませんでした。だから、因果関係がない上で、裁判を起こして、たとえ勝ったとしても因果関係が元々ないわけだから治療法なんてできませんよね。だから、そういう点で、間違ったものをどんどん進めていって、裁判に勝ったとしても、お金以外で何も得るものはないと。だから治療もできないし、治癒もない、時間だけが経っていく。皆さんおっしゃってるのは〝間違ったものに対して、どんどん時間だけが経っていって、体調不良が治らなくなっていく〟〝あるべき治療があったはずなのに、それが受けられないということで、誰も幸福にならない〟私たちの立場からすると、間違ったものの上に正しい方策はないし、健康や幸福もない、そういう理解でいます」

――原告の人たちの話を聞くなり、発信している内容を見ると、鈴木先生の論文に対して、いろいろと設楽・森川論文や八重・椿論文、隈本邦彦氏の「名古屋スタディという研究は存在しない」というような論説などが出ていて、それが正しいものだっていうことを前提に発信をされていて、〝自分たちの方が科学的にも正しいんだ〟というところが、かなり信念的に持ってしまっているところがあって。そこを突き崩すっていうのって、私も報道に関わる人間でありながら、科学や医学にそんなに詳しくないという立場からすると、なかなかそこの判断というのは、〝科学的にこれが正しいんですよ〟ということをいくら言っても、〝いや、こういう説もありますよ〟となかなか理解してもらえないというジレンマを私から見ても思うのですが、そういう点を、鈴木先生が見られて、どう突き崩していけばいいのかというところについて。

「私たち研究者は実はこういうことには慣れてなくて、だいたい科学的に正しい事しか見聞きしないので。これは、明らかに間違っているものに対する方策というものは、教科書的にどう動くというのが何もないんですよね。だから例えば私たちの研究仲間でも〝鈴木さん、こんなもう箸にも棒にも掛からないもの、放っておきなさい〟と言う人はかなりいます。だけど、私は〝間違ったものはすべて潰す〟という方針でいっております。今、対立論点はこれだけ(資料にあげられた8つの対立)だと思うんですよ。だから八重・椿論文は撤回請求のレターを出しました。ただ、これはJJNS(八重・椿論文を掲載した日本看護科学学会の英文誌)が〝撤回しません〟という結論を出したので、JJNSとしては終わった問題だと思ってます。あとはいろいろ論説が出てるのですが、論説が出るごとに‶あなたが言っていることは間違っている〟という反論を書いてます。出版されているのが鈴木論説1と2。裁判でもちょっと出てきた設楽・森川論文には非常に初歩的なミスがあります。(資料に)鈴木論説3と書いてあるけど、今これ査読中です」

鈴木貞夫教授提供資料

鈴木貞夫教授提供資料

「だから鈴木論説3が出れば、設楽・森川論文は正しくないということが判る。あと隈本論説への反論はもう2か所に出しています。もともと隈本論説が出された日本社会臨床学会というところに、隈本氏があんな論説を出すのだったら私だって反論する権利があるだろうということで、鈴木論説4を出したんですけど、一年以上査読中とか言って引っ張られた挙句、〝査読不能〟という返事をもらったんですよ。あそこはまあそうだろうなと思ったんですけど、それを今度は日本公衆衛生学雑誌に出したんです。そしたら〝他学会の批判はできない〟ということで、すぐにリジェクトされました。それで今、臨床評価、ここは割に何でも出してくれるところなのでここに投稿しようと思ってるんですけど、他のものがここで2本査読中なので、私の手元にまだ置いてあります。これはおそらく年度替わりぐらいには出すつもりです。隈本論説をお読みいただいて判る通り、あれは科学的な論説じゃなくて、鈴木をディスるだけのもの。こちらからは‶あなたの言っていることは一から十まで全部間違いだ〟という話なんですよ。それをちょっと科学的な読み物として書いたのが、この鈴木論説4です」

――科学ジャーナリストなど名乗る人たちが、あたかもこう一見、学術的な裏付けがあるようなものを出してきたとしても、そこはちゃんと学術研究者としてしっかり潰して行くと?

「私はそういうものの考えだし、あの名古屋スタディも出した当初は、何か自分が間違ったことをやっていないかということは実際分からないですよね。だから、生データを公開してほしいというのはそういう意図なんですよ。私が何か間違ったことやってるなら誰か直してくださいと。ただ、私は慎重にやったし、標準的なことを丁寧に解析して出したと思っているわけです。だけど万が一何かあったら嫌だし、〝鈴木ってクローズドなデータを使って何か勝手なことを書いた〟と言われるのも嫌だったから、とにかく生データは出してもらったんですよね。そうしたら、あんな論文が出ちゃった。私が言ったから出たということを考えると、ちょっと責任もあるかなと思って、八重・椿論文だけは絶対撤回させると思っています」

――隈本氏の論説文を見ても、〝もともと鈴木教授が偏ってるんだ〟みたいなことを前提で書かれていて。

「〝あなたが偏ってるだろう〟ということですよ、こちらから見ると」

――隈本氏が主要メンバーになっているその薬害オンブスパースン会議自体が非常に偏っているという…

「これもあちこちに書いてるのですが、私は少なくとも自分から手を挙げた人間じゃなくて、名古屋市から頼まれた人間で、何かデータを曲げたりする、それこそ研究者生命を賭けてまで嘘を書く動機は何もないですよね。しかも、そういう動機のある人が生データを公開しますかという話なんですよ。だけど向こうは、最初から〝偏っている〟と言ってる。私から見ればね。向こうの言ってることは一から十まですべて全部デタラメだし、あと、〝研究者の矜持〟とか書いてあるけど、私から見たら八重・椿論文でやっていることは、矜持どころか研究者生命を脅かすようなことをやっているわけなので。八重さんも准教授だったのがこの論文の後で教授になってますよね。聖路加国際大学の教授の昇進の会議が撤回要請レターを知っているのかと疑問に思いますよ」

――我々、科学の知識が浅い人間がどう判定するかというと、やはりちゃんとしたところがちゃんと判定してるかどうかというところが基本だと思っています。そういう点においても鈴木教授に当然、理があることは判るのですが、逆にこの薬害オンブスパースン会議という組織についてはどう思われていますか?

「組織に疫学者がいないということが問題ですね。疫学の問題をやってるのに、疫学者がいないってどういうこと?というのをどこかに書きましたが、言ってみれば八重さんだって統計の人ですよね? 私たち疫学者は統計を使っていろいろやってるけど、統計学者ではないから、自分たちの統計的な能力に関して、すごく限界があるのを知っているし、それに自覚的で統計学者を尊敬しているんです。けど、統計学者の人たちを見ていると、自分たちが疫学の知識がないっていう、あるいは必要だっていうことに関して、自覚的じゃないんですよね。だから疫学的にとんでもないことをやったりする。この問題とか、あとはコロナの問題。自称統計学者という人たちはデタラメ論理をいくつも出していて、コロナでも本当に酷い話がたくさんあった。それもできるだけ丁寧に潰してきたつもりではいるのですが、市民の皆さんは、疫学と統計学は同じだと思っている。統計学の人が、疫学知識がないばっかりにデタラメなことをやるのに関しては、僕も気づかなかったけど、コロナ禍で本当にここまでひどいのかということがよく分かりました。疫学が分からない統計学者、要注意ということです」

――それが八重・椿論文であるとか、そういうところに現れているということなんですね。

「そうですね。分かってることと分からないこと、両方あるのですが、分からないことのトップクラスのものとして、どっちがStudy Periodを思いついたか」

――八重氏、椿氏、どっちがと?

「どっちが。Study Periodを試行錯誤でなくて理詰めで考え出したとしたら、かなり頭のいい話なんですよ。だから向こうからしたら、デタラメということが鈴木には分かるまいと思ってやった〟ということでしょう? これは。だけど〝私には分かりますよ〟というだけの話で、〝あなたたちが言い逃れできないような潰し方をしますよ〟ということで私は2通レターを出しているのですが、2通目のレターに関して統計の人から〝先生、性格悪いです〟と言われました。〝これ出されて言い逃れなんか絶対できない〟と。ところが2つ目のレターがJJNSでは参照されていません。1つ目のレターで議論は終わりで、2つ目は出しただけ。で、そのことについてディスカッションが何もなされてないというのが、JJNSボードにアンケート取って分かってきた。だからそれも含めて看護科学学会理事に最終通告というか〝八重・椿論文を5月までに取り下げなさい〟あと、〝編集長退任を要求します〟と意見書を出します。私、JJNSの会員なんですよ。撤回のためには内部にいた方がいい。だからこの3 ~4年、学会に出てるのですが、この前の学会はついに演題がリジェクトされました(笑)」

――そうなんですね。だから私も元朝日新聞の大熊由紀子氏が理事となっている日本医学ジャーナリスト協会がかなりHPVワクチンについてデタラメなことをやってるので、敢えてそこに入ろうかなって思ったことがあるんですよね。

「お勧めします。結構面白い、面白いというか興味深い」

――鈴木先生としては研究者、学術的なところに関しては、しっかりそこで潰して、もう決着を付けるということですよね。

「私はあちこちで書いてるんですけど、科学で判断すべきことが司法の場で判断されるのは、私は我慢できない。これは科学の正誤の話で、〝いろんな考え方があるよね〟とか‶みんなで議論したよね〟とかいう、そういう話じゃないんですよ。合っているか間違っているかという話なんですよ。私はずっと‶向こうは間違っている〟と言ってるんですけど、向こうがこっちを批判する時に、なんかこの〝当てはまりが悪い〟とか、あるいは〝交互作用を考慮してない〟とか…。そんなことじゃなくて、あんたたちがやってるのは、情報バイアスを見ているだけで、それワクチンの副反応じゃありませんっていう話なんですよね。論文に問題点がありすぎて、却って焦点がボケている。それなら一番の問題点はStudy Periodなので、もうそれだけでやったほうがいいかもしれないです。Study Periodを出した段階で、もう研究者生命は終わりです」

資料を提示しながら説明する鈴木貞夫教授

資料を提示しながら説明する鈴木貞夫教授

――では科学者としての決着は、遠からずしっかりつけるということですよね。

「つけるつもりです。ただ、JJNSがすごく閉鎖的なんです。〝もう問題は終わった。だからやらない〟って話なんですよ。だから〝問題があるからやる〟という姿勢はまったくなくて、〝もう終わったからやらない〟と言ってるだけなんですよ。彼らで終えただけで、私は全然終わってない」

――原告の支援者の動きを見てると、隈本邦彦という人物がかなり理論的、思想的にも引っ張っているところがあって。専門家証人の尋問を聴いて不安になったかもしれない原告の保護者に対して、〝いや、これはこうだからこうなんですよ〝みたいな形で、非常に彼の存在が悪い意味で大きいというのをずっと感じているんですけれども。

「そうですね」

――我々が裁判についても科学についても素人が、原告やその支援者もそうだと思うのですが、そういう人が、こういう一部の偏ったというかちょっと問題のある人物の影響を受けずに、ちゃんとした情報を得られるためにはどうすればいいのかというところがジレンマなんです。

「私が思うに、厚労省ってありますよね。私、厚労省から頼まれていろんなことを結構やっていて、この問題についてもいろいろ話をしたりしてるのですが、厚労省がこの辺りのことをどう考えているのか分からなくて。というのは、私から見たら名古屋スタディが100%正しくて、向こうなんて何一つ理はないと。なんだけど、なんかちょっとこう、いろいろ向こうの批判があるから、鈴木の名古屋スタディをあまり表に出すと、厚労省が足下を掬われると思っているような気がして。だからHPVワクチンの積極的勧奨再開についても内外のいろんな研究と言っているだけで名古屋スタディの名前は厚労省資料には出てきていないんですよ」

――そこはあえて触らなかったってことなんですか?

「私の解釈としてはそうです。ただ向こうの個人からは、‶あの研究があって本当に助かった〟と言われました。ただ、それ出しちゃうと、なにか足下掬われる時に自分も一緒に転んじゃうんで。厚労省の動きとして腰が引けている。だからもうおおごとにならないように、ならないようにしてるから、却って隈本氏みたいな人を止められないと私はそう思っています。なんだけど、隈本さんの言ってることが…。だってあの人、素人なので。

――彼は医療や科学系のジャーナリズム界隈で重宝されていますよね。北海道大学のCoSTEPでも今も講師をやっていて、彼は立ち上げにも関わっているのですが、

「そうなんですか、それ酷いな」

――去年、私もCoSTEPの講師として呼ばれて行ったんですよ。その講義の中でHPVワクチン訴訟をめぐる背景から隈本氏の問題点について解説しました。

「それは、良かったです。うちの話をすると、私は名古屋市立大学の医学部にいますが、薬学部の教授で隈本氏に近い人がいて、その方が何回か、薬害について取り上げているのですが、そこにHPVワクチンがスーッと入っているんですよ。隈本氏も来たことがあると思うし。HIVとか肝炎とかちゃんとした薬害の中になぜかHPVワクチンが入ってるんですよね」

――私も彼の講演を聴いたことがありますが、他の薬害の中にしれっとHPVワクチンを入れているんですよね。

「そうなんですよ。だからとにかく名古屋市立大学の薬学部というちゃんとしたところがそんなことやっちゃダメでしょうということで、学部長レベルで一応抗議はしています。それに、もし中立にするんだったら俺も呼べって話ですよね(笑)」

――ジャーナリストや報道する側にいる人が隈本邦彦という人物に人物に正面から〝あなた違うよ〟って言える人があまりいないのかなという。

「それが分からないんですよ。頑張ってください。とにかくあの人の言ってることは一から十までほぼデタラメ」

――でもやたら自信満々なんですよね。

「あの隈本論説を読むと、私には一から十までデタラメだということに関してすぐに分かります。なので、〝隈本氏はこう言っているけど、実はこうなんだ〟と全部書いたんですよ。例えば〝横断研究では因果関係について確定的な結論が出せないことを知りつつ、それを言わないことについて疫学の専門家としてどうか〟とか書いてありますが、あれ横断研究じゃないんですよ。そもそも名古屋スタディは横断研究ではありませんという、一から十までそういうのばっかり」

――私が隈本氏の知識が怪しいなと思ったのは、原告支援者が裁判所前でリレートークをやっていた際、彼がほかの人と雑談しているのを聴いたことがあるのですが「俺、科学の専門家じゃないからわかんないけど、このワクチンはアジュバントが悪さをしてると思うんだよね」とか言っていたんですよ。そんなレベルで素人っぽい感じで話しているのかとちょっとびっくりしたんですよね。

「私が思うのは、私は疫学の専門家で、逆にいうと疫学以外のことはホント分からないですよ。だから私、アジュバントの話は参加しないんですよ。アジュバントの話でも、アジュバントを打った人の疫学的な話だったら私も何か言えますけど、アジュバントのいわゆる細胞の中の動きとか、そういうことは一切分からないので。分からないって言っても普通の医者レベルでは分かっているつもりですけど、その専門じゃないですよね。だからそんなことは言わないし、言ったとしても‶意見〟なんですよ。逆に疫学のことでは、これは意見ではなくて専門家として正しいことを言ってるんだから、とにかく隈本氏がこう言ったということと僕がこう言ったというのを同列に扱うのはやめてということです」

――そこなんですよね。

「だって僕、こう言ってはなんだけど、日本でも勉強してハーバードまで行って、けっこう良い成績で卒業してるんですよ(笑)。だけどあの人は疫学なんて専門でも何でもないですよね。その人たちが鈴木批判をするっていうことが、例えば私が本庶先生とか批判しませんよ。だって分からないのだから。分かんないことで批判ができるという、その心根が分からない」

――今、普通にまかり通ってる構造がやっぱり何か変だなというところを、

「変です」

――まず、やはり指摘した方が良いのかなと。

「そうなんですよね。あと私、〝鈴木だって医者かもしれないけど、患者なんて全然診ていないのに〟とよく言われるんですよ。だけど、患者を診ていたら、こういう仕事はできないですよね。患者を診ている人が一番偉くて、研究してる人はそうじゃないというのは職業差別だし、逆に患者を診ている人にはこういう仕事はできません。患者を診る時間に研究や勉強をしているからこういうことが分かるのであって、一見簡単そうに見えるかもしれないけど、そうではありません。だから、向こうの言ってることは全然そういうものに立脚しておらず、単なる悪口です」

――専門家証人の尋問の中でも、原告代理人がそういうことを毎回言ってますよね。〝臨床してないのに〟みたいなこととか。あとやはり法律家である原告の代理人弁護士が、科学や医学的な内容を科学の専門家に対して法廷で問い質すというあの感じにすごく毎回違和感があります。

「中村先生の証言は主尋問だったから。さーっと流れてはいましたけど。私も東京地裁であった角田先生の反対尋問の内容をたぬきち先生が書き起こしていたものを読んで、〝載っているかどうか答えろ〟とか、はぁ?って感じですよね。正しいかどうかじゃなくて、載っているかなの? という話で」

――原告弁護団に以前質問して書いたのですが、〝裁判では一点の曇りのない自然科学的な因果関係を証明する必要はなく、高度の蓋然性を証明する法的な因果関係で足りるんだ〟ということでやっているところの問題なのかなと思います。その東大ルンバール事件の時の科学、医学の状況と今は違うので、やはりそこは精密に科学的に因果関係を法廷でも立証すべきだと思うのですが、何かそこのズレというか…。

「そうなんですよね。思うにこの図式は、この登場人物からHIV(薬害エイズ訴訟)の第二幕なんですよね。HIVの時、薬害オンブスパースン会議は勝ってますよね。でも、あの時は、因果関係は判っていたのでそれは論点ではなかったんですよ。因果関係が論点ではなくて、一つ一つのエピソードについてもその因果関係は判っていたわけだから、国なり製薬企業の責任だとなって勝ったという話で。今度はそのエビデンスがないので、エピソードを並べても仕方がないんですよ」

――そうですよね。HIVに関しては結局あの時点で血友病のリスクと血液製剤のベネフィットを天秤にかけて、ギリギリの判断になったわけで、郡司篤晃氏の書籍『安全という幻想:エイズ騒動から学ぶ』を読んだのですが、あれを単純に薬害だと言ってしまうのもちょっとやっぱり違うのかなと思います。

「まずい面はあったかもしれないけど、世間の人が思っているほど悪い話ではないんですよね。あれも郡司先生ともう一人の安部英先生、あの二人が悪者になっちゃいましたよね」

――それが世間一般の認識でしたが、でもちゃんと郡司氏の書籍を読むと〝こういう事情だったんだ。‶それなら仕方ない面もありますよね〟となります。

「実は私、もうウォッチャーになってて(笑)、原告団のzoomの講演会を、誰でも参加できるとあって聴いたことがあるのです。原告の少女が〝私の喋り方が悪いので、あまり共感が得られなかったしれない〟という話をした時に、原告代理人のある弁護士が〝いや、前は因果関係が判っていたんだけど、今回はそういうわけじゃないから前とは違うんだ〟と。彼は状況が分かってるという発言をしていたので、〝分かっていてこれなの?〟と私は思ったんですよね。分かっていて、あんなところ(法廷)に引きずり出すということそのものが悪でしょう」

――そうですね。体調の悪い少女たちを引っ張り出して。

「そうなんですよ」

――ナラティブベースを前面に。

「そうそうそうそう。ナラティブになるのはしかたないけど、科学ベースだと必要なのはエビデンスで、一つ一つのエピソードは何の意味もないんですよね。だけど原告の女性たちはそういうことが分かっていないし、弁護団もそういう説明、多分してないですよね。だからそれが非常にお気の毒だし、良くなる可能性があるものも、こんなことをやっていたら良くならないというような気も持ってます」

――私はこの間の傍聴のときは隣に座った疫学に詳しい方に、法廷で飛び交う難解な言葉の一つ一つを〝これ何ですか?〟と訊いて、確認しながらだったので、まだ理解できたのですが、ぱっと見で原告側、支援者や親とかも傍聴していてもやはり理解できないと思うんですよ。

「できないでしょうね、少なくとも交絡や交互作用が何かなんて絶対にわかりませんよね」

――そうなんですよ。私も一応、統計とか疫学をさらっとはみたんですけど、それでもあれ? なんだっけ、これ? というものが、かなりありました。

「おそらくあの、私がお送りしたスライドの4枚か5枚後ろに載っている、京都で私が椿さんと直接対決した時の私の資料があるんですが、それが一番わかりやすいかなと思います。私は本当にとにかく八重・椿論文が害悪しかないことを何とかして言いたいと思ってるので、掲載紙を探してるんですけど、一つはJJNSですね。もう一つはJE(Journal of Epidemiology)で、祖父江班の論文の中でチラッと〝名古屋スタディと八重・椿論文の違いは基本的には方法論の議論である〟みたいなことが書いてあって、そこに噛みつくことはできるかなと。それは方法論の議論じゃないと、向こうが100%間違っているんだと。だからそういう論文を書いて、とにかくJEで公開ディスカッション。どちらだけとかではなくて両方ともまず著者が、例えば私と椿氏が何か言うと、それで第三者、例えば中村先生と誰かが言うみたいなものを、エディトリアルとしてやってくれるかなって言ったら、それに対しては若干否定的な返事が来ました。それでも、レターを書くという手は一つあるかなと」

以下が、鈴木貞夫教授から提供を受けたスライドである。

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