HPVワクチン訴訟、専門家証人の本人尋問&会見レポート
継続して裁判の進行を追っている「HPVワクチン訴訟」のレポートです。(傍聴メモと会見取材からの文字起こしが中心のため、用語や細部で間違いがあるかもしれません)
2025年2月10日、東京地裁。HPVワクチン訴訟の口頭弁論において被告側専門家証人の主尋問が行われました。
原告支援者によるリレートーク
12時半過ぎから地裁前で行われた原告支援者による恒例のリレートークでは、HPVワクチン薬害訴訟全年国弁護団の全国共同代表の水口真寿美弁護士が、原告やその家族及び支援者に「今日、(原告側専門家証人の椿氏の証言を)否定するような証言をこれからされると思います。それを聴いて、心配になったりしないでください。次の反対尋問のために、私たちも万全の準備で臨みたいと思っています」と発言。



法廷での傍聴、焦点は「名古屋スタディ」
傍聴券交付(抽選)には傍聴券54枚に対し、約1.5倍の人が並ぶ。13時半で抽選締め切り、首尾よく当選し傍聴可能に。
13時半に開廷。この日の証人尋問は、疫学・公衆衛生学が専門で疫学研究の第一人者である中村好一氏。
尋問はGSK代理人の佐藤恵二弁護士。
中村氏はクロイツフェルト・ヤコブ病の訴訟の際は原告側として証言しており、今回、HPVワクチン訴訟において被告側の証人申請に応じた理由を訊かれ、こう答えていました。
「どちらに加担ではなく、正しい知見による裁判にしてほしい。正しい科学的見地から発言しており、依頼があれば応えている」
以下、傍聴メモから中村好一氏の受け答え内容の抜粋を、箇条書き形式で羅列します。
・疫学は「人を相手に外部妥当性が高い」「車の両輪のような関係」
・北欧などでは予防接種と個人番号が紐づけされており、全数調査がなされているが日本では難しい
・名古屋スタディ及び北欧など諸外国の結果からトータルとして両者(HPVワクチン接種と多様な症状)の間に関連がないというのが結論
・名古屋スタディは分析疫学、祖父江班の研究は記述疫学
・因果関係の判定についての基準である「時間性」「一致性」「強固性」「必要十分性」「整合性」を総合的に判断
・(名古屋スタディの評価について)「研究と方法、入念。解析も様々なものを行い、非の打ちどころがない」
・(名古屋スタディにおける年齢調整が誤りとの原告側の主張について)「理解できない」
10分間の休憩が入り、再開後はGSK代理人の小森悠吾弁護士が質問。
・(設楽・森川論文について)「かなり言い過ぎな見解だと思う。なぜこのような解析をしたのか理解できない」
・(八重・椿論文についての全般的な評価を問われ)「なぜこのような解析を行ったのか、なぜこのような解析の結果が学会誌に掲載されたのか。意義のない、有害だと言っていい」
・(八重・椿論文における「study period」の概念について)「なぜこのような方法を、しかも今まで誰も導入したことのない方法を採ったのか理解できない。バイアスを引きずり込むような解析方法」「正しくない結果を導き出している」「砂上の楼閣」「自らの主張に合う結果を提示したのではないか?」「(ワクチンによる症状の)主張のために都合のよいところを提示」
・(利益相反/COI。八重氏が薬害オンブズパースン会議のメンバーであることを非開示にしていたことについて)「研究の中立性に影響」「COIは多くは経済的な問題だが、特定の主義・主張をする団体に所属している」こともCOIに該当。「10人の研究者に訊くと全員が〝問題あり〟」
・(八重・椿論文が掲載されたのが看護学の雑誌だったことについて、論文の価値や評価を訊かれ)「鈴木氏の論文は日本公衆衛生雑誌という専門誌で「本丸」で勝負している。看護学の雑誌はワクチンの安全性の守備範囲ではない。名古屋スタディのように保健統計学、疫学の雑誌で勝負すべき」
・(八重・椿論文が主張する「シグナルの検出」「これまで知られていない因果関係の可能性」について)¥WHO による『シグナル』の定義は、医薬品の承認前の安全性、長期間のもの。因果関係は出てくる事象。ある程度になるとシグナルとして出てくる」「HPVワクチンについてもシグナルが出たので海外で全数データ検証、関連無し。日本で名古屋スタディ、関連なしだった」
・(椿氏の「有意差なしを関連がないとするのは統計の誤用」との椿氏の見解について)「統計学的にみれば確かに〝示された〟ということではないが、疫学は総合的に判断するため『HPVワクチンと症状に関連ない』で結構だと思う」
・(HPVワクチンと症状の因果関係について)「これら全てを勘案したところ、疫学的にHPVワクチンと症状に関連はない」
・「時間性はサブグループ2で対処」「一致性か諸外国と名古屋スタディの結果」「強固性は高いオッズ比なし」「一貫性は無し」「必要十分条件を満たしていない」「整合性もない」
・(「HPVワクチンの安全性について、全人口ベースでは稀な○○が得られない」との椿氏の見解について)「全数調査をして出てこないものは臨床数として取り上げる必要はない」
・(HPVワクチンと多原告が訴える様な症状の関連の有無について)「両者の間に関連はないと判断いたします」
・(子宮頸がん検診や円錐切除術があるのでHPVワクチンは必要ないとの主張について)「公衆衛生は1次予防、2次予防、3次予防と分けて考える。1次予防が一番大切、子宮頸がんはヒトパピローマウイルスがかなりを占める。ワクチンで防ぐ。一次予防で相当数。それでも発生したら検診で見つける。〝二次予防があるから一次予防が要らない〟というのは暴論、ナンセンス。〝肺がん検診があるからタバコ規制が要らない〟とはならない」
最後に疫学・公衆衛生学の専門家として感じたことを訊かれた中村好一氏は、こう締め括った。
「名古屋スタディの素晴らしさに感服します。鈴木教授は師匠である国際疫学会理事長の青木國雄名古屋大学名誉教授のお弟子さんで、青木先生の鍛え方はハンパなく、鈴木教授に嫉妬するほど」
「椿先生は論文の共著者になったばかりに〝年齢調整が誤りだ〟など研究者生命にかかわる発言をさせられ気の毒に思います。同情します」
「私は、どちらに与することはなく、世の中が、社会が正しい科学的根拠に従って動いていくことを期待します」
ここまでが傍聴レポートです。
雑感として、「曝露群と非曝露群」「記述疫学と分析疫学」「95%信頼区間」「交絡因子」「交絡調整」「数学的モデリング」「多変量解析」「交互作用」「健康者接種バイアス」といった専門用語が多く、基礎的な疫学や統計学の知識がないと理解するのは困難と感じました。
閉廷後の会見は製薬会社2社のみ
閉廷後、17時からGSK代理人、17時半からMSDの会見が司法記者クラブの会見室で行われました。この日、原告代理人の会見は開かれませんでした。