22年間の孤独な“格闘”が稀代のカルト教団を解散に追い込むまで

2002年に独りで始めた統一教会との闘いは22年を経て解散命令を得るにまで至った。そんな22年間の暗闘の軌跡を綴った書籍「統一教会との格闘、22年」が話題となっている。theLetter鈴木エイトの調査報道ファイルでは、同書の一部を引用しながら鈴木エイトの“格闘”の日々を描いていく。
鈴木エイト 2025.04.27
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※この記事は、鈴木エイト著『統一教会との格闘、22年』(角川新書)より内容を一部抜粋し加筆しています。

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解散決定へのカウントダウン

 司法がカルト教団に対し宗教法人の解散を命じる——2023年10月13日、文部科学省は宗教法人法に基づき統一教会(旧統一教会/世界平和統一家庭連合)の宗教法人としての解散を東京地方裁判所へ請求。以降、非公開での審理を経て今年3月25日、東京地裁は統一教会に対し解散を命じた。

 日本社会に多大な被害をもたらした〝カルト教団〟が、公益性のある宗教法人として様々な優遇を受けてきた。その是非が、22年7月8日に起こった安倍晋三元首相銃撃事件を契機に取り沙汰された。政権の庇護の下で体制保護を受けてきた教団の解体へのカウントダウンが始まる。

即時抗告も高裁の判断は変わらない

 地裁の命令に対し教団側は即時抗告を行い、抵抗を続けていく。解散命令を巡る審理の場は東京高等裁判所へ移ることになるが、私は高裁でも同じ判断が出るとみている。私が様々な現場で目の当たりにしてきた統一教会による不法行為の実態は、解散命令を規定する宗教法人法第81条一項の条文「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」及び二項の条文「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」に合致するからだ。

 高裁が解散命令の判断を下し教団側が最高裁へ特別抗告をしたとしても、最高裁や高裁の裁判官が執行を停止しない限り、裁判所から選任された清算人による清算手続きが進んでいく。

22年間の“暗闘”

 日本社会へ多大な被害を与えてきた稀代のカルト教団との闘いに一区切りがつく――。2002年、統一教会信者による正体を隠した組織的な偽装勧誘の現場に遭遇し、伝道活動を阻止してから22年間、暗闘といえるような日々が続いた。尾行を受け、殴られ、個人情報を晒され、脅迫を受けても、屈せずに問題に取り組んできた。

被害規模は1兆円か

 統一教会は様々な誘い文句で勧誘した市民を偽装教化施設に通わせて教義を刷り込み、思考の枠組みを変容させて組織に従順な信者へと人格を作り変える。そんな信者たちを霊感商法や偽装勧誘に従事させ、高額な献金を集めて日本から何千億円ものお金を収奪。韓国の教団聖地に建っている豪華な施設や教祖が提唱した「統一運動」を世界中で推進する「摂理機関」と呼ばれる教団関連組織の運動資金に投じてきた。

メディアの放置

 各メディアは70年代から90年代半ばにかけて統一教会の問題性を報じていた。95年以降、カルト問題の報道は地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教が中心となり、ニュースバリューが低下した統一教会の報道は激減、被害や問題性が社会に認識されにくくなった。だが、被害は変わらず続き、さらに政治家との結びつきによって体制保護を受け活動の幅を広げていく。その陰では、2世の問題を含む深刻な被害が発生し、家庭崩壊も起こっていた。

 ほとんどのメディアが統一教会の問題を取り上げなくなった2010年以降も、私は統一教会の問題、そして政治家との関係を追及してきた。

元首相銃撃事件

 そして22年7月、日本で最も著名な総理大臣経験者が、国政選挙の応援演説中に衆人環視の下で銃撃され命を落とすという重大事件が起こる。現行犯逮捕された容疑者は統一教会の被害者だった。事件の背景には統一教会による被害や教団と政界との関係があったのではないか、と報じられ、その問題を唯一追及してきたジャーナリストとして私の存在がクローズアップされた。

カルト勧誘阻止活動からジャーナリストへ

 私はまったくしがらみのない状態で、あくまで自発的に活動してきた。もともとは統一教会が組織的に行っていた正体を隠し伝道を阻止するパトロール活動からだ。並行して「ビデオセンター」と呼ばれる信者の生産拠点からの被害者救出も行っていた。

 単純に「だまされた人を放っておけない」という思いからだった。だが、そうした活動を続けていくなかで、カルト問題の複雑さを知ることになる。勧誘阻止活動などの現場でやり取りを重ねると、大半の信者たちは純真で、悪意もないことが判る。ではそうした善良な信者たちがなぜ、時には不法行為を犯してまで他人を反社会性の高いカルト教団に導こうとするのか。探るために彼らの内面に迫り続けた。なぜなら、その答えは信者本人と直に接しない限り、決して得られるものではないと思ったからだ。その探究の過程では勧誘員や元信者たちとの交流も生まれた。

 当初、私は勧誘阻止活動や被害者救出だけを行っていた。自分がやるべきだと思ったのは新たな被害者を生まないこと、カルトの陥穽の入り口で止めることだと考えていたからだ。だが独りでやれることには限界がある。カルト被害を防ぐためにはさらに広い範囲へ情報を届ける必要があると感じ、並行してカルト問題の周知、予防、啓蒙など様々な取り組みも行った。

 街頭での勧誘阻止活動やビデオセンターからの被害者救出の実例を2007年からブログで発信し、2009年創刊のネットメディア『やや日刊カルト新聞』にライターとして参加した。衰退する地域社会に入り込むカルトの問題を社会問題として一般誌に寄稿した11年から「ジャーナリスト」を名乗るようになった。

法的威嚇や殺害予告も

 私の追及の対象は統一教会のみならず、そんなカルト教団と通じ合う政治家へと広がった。最終的には時の政権とこの問題教団との間に存在する癒着構造に行き着く。政治家たちへの取材の過程では、時の防衛副大臣からの虚偽の110番通報によって選挙自由妨害で警察に逮捕されそうになり、内閣官房長官の懐刀で直後に経済産業大臣となる国会議員からは虚偽の建造物侵入罪で刑事告訴され、「被疑者」にもなった。教団関係者からは殺害予告まで受けた。

 それでも私は、この問題を手放さなかった。長年やってきた意地もあったし、このままでいいとは思えなかったからだ。社会の注目度も低かったため、ライターのみで生計を立てることは難しく、不動産やビル管理の仕事を掛け持ちしながら続けてきた。

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