「これは統一教会という宗教カルト団体の勧誘ですよ」22年前の渋谷からすべては始まった
2002年6月、渋谷の雑踏で、統一教会による正体を隠した偽装伝道の現場に遭遇し、介入して勧誘を阻止したことで、時計の針が動き出す。カルト被害の入り口での勧誘対象者の救出——それが統一教会との〝暗闘〟の始まりだった。
※この記事は、鈴木エイト著『統一教会との格闘、22年』(角川新書)より内容を一部抜粋しています。
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鈴木エイト著『統一教会との格闘、22年』(角川新書)
22年前、渋谷駅前
ある日の夕方、仕事帰りに立ち寄った渋谷で、私はある光景を目撃する。JRから東横線へと続くコンコースに立つ3人の男女。スーツ姿の30代くらいの男性が、若い女性の手のひらを見て話し込んでいる。傍らにはもう一人、地味な格好をした中年女性が大げさに頷いていた。目の前の構図を見て、即座に思い浮かぶものがあった。
その前日、私は日本テレビの報道番組『報道特捜プロジェクト』という番組で特集していた統一教会の信者グループによる「正体を隠した伝道活動」の手口を見ていて「とんでもないな」と思っていた。都内の駅前などで「手相の勉強」や「意識調査アンケート」などと通行人へ声を掛け、「ビデオセンター」と呼ばれる教化施設へ連れていくという。目の前の光景を見て「これが統一教会の偽装勧誘か」と合点がいき、後先考えず割って入った。
――これは統一教会というカルト宗教団体の勧誘ですよ。気を付けてください
手のひらを見せていた女性に注意を促す。すると男性勧誘員がしらじらしく否定する。
「違いますよ。統一教会? なんですか、それ」
一悶着あったものの、ほどなく女性は解放され、渋谷の雑踏に消えていった。統一教会による勧誘被害を防ぐことができたことに安堵した。
それもつかの間、男性勧誘員は女性がその場を離れた途端、それまで勧誘対象者に向けていた柔和な顔とはうって変わった険しい顔を私に向ける。
「なんだ、お前は?」
そう悪態を吐くと、女性勧誘員とともに立ち去っていく。私は、その憎悪の表情を見て、豹変ぶりに衝撃を受けた。
一組だけではないかもしれない――気になって、辺りを注意深く観察した。すると、当時、渋谷駅ビルの東急百貨店東横店東館にあった「東横のれん街」の前で、ノートやバインダーを手に「手相の勉強をしています」「青年意識調査アンケートをしています」と道行く人に声をかけている統一教会の勧誘員がざっと数えても数十人はいる。そしてその誘いに応じて、手相を見せたり、アンケートに応じている人も複数確認できた。
「おいおいちょっと待てよ! なんだこれは!」
その光景を観た時、自分の中でスイッチが入ったことを覚えている。気付いたら片っ端から勧誘現場に割って入り、捉まっている人に霊感商法などで社会問題となっているカルト教団の勧誘であることを伝えて回っていた。
私の指摘に対して勧誘員たちは統一教会の信者であることはおろか、伝道目的であること自体を否定する。
「統一教会? 何ですか、それ」
「宗教団体? 違いますよ」
邪魔が入ったと思ったのか、勧誘員たちは皆、一時的に姿を消していく。勧誘員が一様に同じ反応をする異様さに直面し、なんともいえない苦い思い、焦燥感ともどかしさが込み上げてきた。
一人で始めた理由
詐欺的な勧誘の実態を目の当たりにして、自分には何かできることがあるのではないかと考えた。
義憤に駆られた私は、統一教会信者グループによる偽装勧誘を阻止するパトロール活動を始めることを決めた。