HPVワクチン訴訟、名古屋地裁傍聴&会見レポート
2025年5月26日名古屋地裁
この日も前週と同様、傍聴抽選の人数に満たず並んだ人全員が傍聴できた。

開廷前の原告と支援者による入廷行動
被告側専門家申請証人、中山哲夫医師に対する反対尋問等が行われた。原告ら代理人の持ち時間は3時間、180分。
ところが最初に尋問を担当した原告ら代理人の久保弁護士が20分ほど尋問を行い、自分の担当箇所が終わった段階で本来は「尋問者、代わります」などというべきところを「終わります」と言ってしまう。この言葉は、期日での尋問全体を終える際に言うセリフだ。慌てて、別の原告代理人が訂正する。「尋問者、交代します」
計5人の原告ら代理人による反対尋問が行われた後、再主尋問、再反対尋問と進みこの日の尋問は終了した。
専門的な話のやり取りが続き傍聴席では原告支援者の男性がいびきをかいて居眠りをしていた。
閉廷後に製薬会社2社と原告代理人による会見が行われた。
MSD代理人の会見
弘中聡浩弁護士「わたくしMSD訴訟代理人の弁護士の弘中からご説明申し上げます。横にいるのは一場弁護士です。HPVワクチンに関しましては、東京、大阪、名古屋、福岡の四つの地方裁判所で2016年7月に提訴されて以来、審理が続けられておりました。2023年5月から12月にかけて原告の専門家証人の尋問、2024年1月から9月まで原告本人の尋問が行われておりました。そして2024年、昨年の10月から被告側の専門家証人の尋問という審理の段階に入っております。本日はこの名古屋地方裁判所で2月17日に主尋問で証言された旧北里生命科学研究所、現在の大村智記念研究所の感染免疫部門の名誉教授で、臨床ウイルス学をご専門とされております中山哲夫教授が原告ら代理人による反対尋問、それから私からの再主尋問に回答する形で証言をされました。中山教授は主尋問と反対尋問において、原告らがその主張の根拠としております静岡てんかん神経医療センターの高橋幸利医師による患者の髄液の検査結果、そしてその評価の誤り、この医師によるNMDA受容体の内在化に関する研究が原告らの主張の根拠とならないこと。この高橋医師らが行っているELISA法による検査結果が信頼性を欠くということ。そして、分子相同性によって原告らの症状の原因を説明しようとする鳥越医師の説明が誤りであること。こういったことについてご証言されました。我々被告としては、中山教授の明確なご説明から、本件で原告らが訴えている症状がHPVワクチンの接種とは関係がない、そのようなことを立証する証拠が原告側にはないということを明確に説明できたと考えております。MSDは世界の人々の生命を救い、生命を生活を改善することに全力で取り組んでおり、原告の方々の健康に心を寄せております。一方MSDは原告の方々が訴えておられる症状は世界で数百万人を対象として25年以上にわたって行われてきた数多くの研究によってHPVワクチンとの関連性はないと考えています。世界中の規制当局と保健期間は、HPVワクチンの安全性と有効性を認めています。主に裁判所の要請を通じて病院から取得した原告の方々の医療記録には、原告の方々がHPVワクチンとは関係がない心因性機能性疾患などによって痛みや運動障害など多様な症状に苦しんでいらっしゃることが記載されています。原告の方々が訴えていらっしゃる痛みや運動障害などの多様な症状は、HPVワクチンが世界で初めて発売された2006年よりもはるか前から、特に思春期の若い方に見られる疾患として知られており、数多くの医学文献に説明がされています。実際、HPVワクチンの接種歴のない方においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の多様な症状を有する方が一定数存在したことが明らかとなっています。原告の方々は多様な症状に苦しんでいらっしゃることは事実だと思いますが、原告の方々や報道関係者の皆さんにご理解いただきたい点はHPVワクチンとは関係がない心因性その他の要因によって、重篤な身体的な症状をもたらしうるということであります。また、原告の方の中には接種後一年以上経ってから症状を訴えておられる方もいらっしゃいます。このように、かなり長い時間が経ってから訴えておられる症状はもちろんのことですが、時間的に近い時期に訴えておられる症状についても、HPVワクチン接種とこれを結びつける科学的医学的に信頼できる根拠は全くありません。実際、原告の方々を診察し、古くから知られている既存の疾患であると正しい診察をしていらっしゃる医師の方も複数いらっしゃいます。しかし、原告の方々は、これらの症状はHPVワクチンの副反応によるものだと主張されている一部の医師のもとで誤った診断を受け、中には侵襲性の高い危険を伴う治療、医学的効果が証明されていない治療を受けていらっしゃる方もいらっしゃいます。MSDは原告の方々が正しく診断され、適切な治療を受けられることが非常に重要であると考えています。日本では毎年約1万人の女性が新たに子宮頸がんと診断され、年間約3000人の女性が亡くなっています。MSDはHPVワクチン接種によりHPV感染から女性を守ることで子宮頸がん患者の数を減らすことができると考えています。実際、スウェーデンやデンマークなど海外ではHPVワクチン導入後に子宮頸がんが減ってきていることが示されており、HPVワクチンの接種率が約80%と高いオーストラリアでは、子宮頸がんは2028年には制圧される、すなわち10万人当たりの罹患者が4人未満になると推計されています。女性を子宮頸がんから守るには、子宮頸がん検診と共にHPVワクチン接種が重要な役割を果たします。MSDは本件は信頼できる科学的エビデンスに基づいて正しく判断されるべきであると考えています。名古屋地裁では次回は確定している日程としては、8月7日に、先週5月16日にこの名古屋地方裁判所で主尋問で証言された愛知医科大学の奥村彰久教授への原告ら代理人による反対尋問が行われる予定となっております。また未確定ですけれども、8月1日に以前の口頭弁論に出頭しなかった名古屋原告1番と13番の尋問が今後、裁判所と当事者の議論の結果、行われることになる可能性があります。被告側の専門家証人は12人採用されておりまして、本年9月まで約4か月間尋問することになっております。この被告側専門家証人の証人尋問が終わりますと、さらに四地方裁判所で先ほど少し申し上げましたとおり、合計10人の原告本人の尋問が行われ、その後、最終準備書面を双方で提出した後、一審の判決という予定になっております。私からの冒頭の説明は以上です。もしご質問があればお受けします」

鈴木エイト
――今日の反対尋問を聴いた感想をお願いします
弘中弁護士「正直なところ、かなり何と申しますが、本筋ではないところの質問が多かったように思います。一つの例で、最後、水口弁護士が再主尋問でされていた資料なんですけれども、あれはワクチンの治験の過程で有害事象がどれだけあるのかということで、原告側としてはHPVワクチンの治験の過程でアジュバントについて、有害事象が多く出てきているという根拠があるのではないかということで書証を示されていたわけなんですけれども、実は原告代理人が最初質問する時に敢えてはっきりしないまま質問していたのは、注射をした後の局所の副反応に関しての資料でございまして、要するに接種した後の痛みだとか赤くなるとかそういった事象も有害事象に含まれてくるわけなんですけれども、そういった局所の有害事象がどれだけあるかという資料を示して、で、原告側としては、あの資料によれば、HPVワクチンのアジュバントにはそういった有害事象がたくさん出てくるリスクがあるではないかということを午前中と、それから最後の水口代理人の尋問で示そうとしたわけなんですけれども、あの資料にははっきりと局所に関しての有害事象ということが書いてありまして、原告が本件で問題としているような注射をすることによって慢性的な痛みであるとか不随意運動とか認知機能の障害だとか、そういうことは全く関係がない資料を示していたということでございます。原告側としては、そういったことで最後の方で原告代理人が言ってましたけれども、中山先生はそういった有害事象の数について認識をしていたのかということをご質問されてきたわけなんですけれども、有害事象には先ほど申し上げたような局所の副反応という本件とは全く関係がないものも含まれているので、そういったところを裁判官に対して強調したいというふうに思っていたんだろうというふうに思います」
――原告代理人はCOI、利益相反について最後かなりこだわっていたように思いますが、その狙いや、実際にこの裁判でCOIが問題点となるのか解説をお願いします
弘中弁護士「実際のところ、中山教授は当然のことながら専門家として製薬会社の講演依頼を受けたりとかそれ以外の仕事もされていることはあるんだろうと思いますし、貴重なお時間を使っていただいたことについての対価というのをお支払いしているという事実も、私は確認はしてませんけれども、おそらくあるんだろうとは思います。しかしながら、それは尋問を聴いていただいて、原告代理人の科学の知識と中山教授の知識というのが、いかに差があるかということが感じていただけたのではないかと私は思いますけれども、本当の意味での専門家でいらっしゃいますので、当然のことですが、こういうことを話してくださいと言って話をしていただけるような方でも当然のことながらございませんので、そういう意味では全く関係がない、原告としてはそういったことしか言うことがないのかなというふうに思っております」
――弘中先生が再主尋問で確認しようとした理補充しようとしたのはどういう点ですか?
弘中弁護士「そうですね、大きく言えば二つありまして。一つはやっぱり中山先生、科学的な証人で中山先生の話は私は横で聴いていただけなんですけど、中山先生の思いはどうしてこんなシンプルなことがわからないの? という気持ちでお話されていたようなのを私は結構感じておりまして、その裏返しでやや言葉が足りない、裁判官が誤解をしてしまったのではないかというふうに思われるところについて、念のため確認をさせていただいたというのが第一点と、第二点は鳥越医師の追加意見書というのが本日の10日前、先々週の金曜日に原告の方から提出されてまいりました。実は鳥越医師というのは大阪地方裁判所で原告側の証人として既に証人尋問が終わっている先生でございまして、私の記憶する限りでは、同じ、要するに証人として出てきて、意見書を提出し、証言もしながら、また追加で意見書を出してきたというのが今回が初めてのことだったと理解しています。で、正直なところ、ちょっとそれはルールに違反しているのではないかという思いもあったわけなんですけれども、内容を拝見すると、結局、原告らの主張を支えるものとしては、まったく根拠がないということが明白でありましたので、その点について専門家である中山教授のご説明をしていただくということで、それを、その時間をほぼ半分ぐらい取ってお願いをしたということであります」
――鳥越医師の意見書はどのタイミングで、被告側申請の専門家証人の中の誰に対しての反対意見であるとかどのタイミングでの意見書だったんですか?
弘中弁護士「鳥越先生がもともと主張していた内容というのが、いわゆる分子相同性、それからワクチンというものが抗体価を上げるということによって、今回の副反応を引き起こすということをおっしゃっていたわけなんですが、今回の意見書は主に分子相同性、要するに分子相同性というのがHPVワクチンによって生じる抗体というものが、本体はHPVに対して感染予防に働かなければいけないのにその分子の並び方が似ているということによって間違って人間の正常な細胞を攻撃をしてしまうというのが、簡単に言えば分子相同性の理論なんですけれども、今日中山先生が盛んに言っていたのは、結局、原告の方は分子相同性があるんだ、それによって自己免疫疾患が発生するんだというふうに言うけれども、彼らの意見を支えている高橋医師がこの抗体が原告の患者から見つかりましたというふうに言っているその抗体による検査法、ELISAって言うんですけども、検査法によって出てくる抗体というのが人間の身体のどこにくっ付くかによってその反応、要するに抗体が出てきてもまったく健康な人にも出てくる抗体とかもいろいろあるわけなんですけども、そういったところまできちんと立証しないと。アミノ酸が抽象的に並んでいるということだけ言ってもまったく意味がないんだということを今日、中山先生が言っておりました。その理由の一つは人間の身体というのは蛋白質というのが立体的な構造なので、高橋医師がやっている検査法というのは、本当は立体のタンパク質を平面に引き延ばして、それでそのアミノ酸の並びというのを解析をしているわけなんですが、それはある意味立体で、本当は丸くなっていて中に入っている抗体というのは認識できないものをELISA法はそれを引き延ばすことによって無理やり認識できるようにしたことによって抗体があったというのが高橋医師の検査法なんですけれども、今日、中山教授が盛んに言ってたのは、そんなことやっても意味がないと。もともとタンパク質は立体構造をしているわけだから、その内部にあるアミノ酸がその抗体と結合するといっても実際にはそんなものは抗体結合しようがないんだということを言ってました。それに対してようやく鈴木さんの質問に対する答えになるんですが、今日原告の方が言ってたのは、そのエピトープというんですけど、エピトープには線状エピトープとコンフォメーションエピトープという二つの種類があって、中山先生が、多分鳥越氏が言わんとしているのは、中山先生が言わんとしてるのはこのコンフォメーションエピトープの話であって、実は線状エピトープもあるんじゃないかと。で、線状エピトープであれば、無理やり立体をその引き伸ばして線状にするということもないわけだか立論が成り立たないと、それが一つ。二つ目は実際に分析したらアミノ酸が類似するものが、並んでいるものがHPVワクチンで見つかっているというのが二つ目で、三つ目がそういうふうに並んでいた場合には、それが自己免疫疾患を引き起こすというエビデンスがあるという三段構成になっているんですが、今日、中山先生が再主尋問でおっしゃったのは、一番目については、そもそも人に関して我々が議論しているのはそもそもコンフォメーションエピトープ、立体の話なので、これを何か線状のものを持ってきたってまったく関係ないですよねというのが一点目で、二つ目は並んでいるということについては、並んでるのは、まあ並んでいるでしょうということで特段そりゃそうですね、でも、だからどうしたんですかっというのが二番目の話で、三番目については原告が引用している文献、これと原告というか鳥越先生が引用している文献というのは二つあるんですけれども、その二つの文献とも、いわば症例報告といって、こういう病気の人がいましたと、で、この原因はこれだと思いますっていうふうに発表しているだけの文献なんですけれども、決して先ほど話が出ているような分子相同性があったら自己免疫疾患が出るということを立証したエビデンスにはなってないんですけども、これを以ってどうして鳥越医師がそれが立証できたというふうに考えたのか、それは私にもわからないし、中山先生もわかりませんというふうにおっしゃっていたと今日いうことであります」
――今日の期日に合わせて意見書が出てきたんですか?
弘中弁護士「今日の期日に合わせたて、だから今日の彼ら原告は、それは本当にどこまでそうなのかわかりません、これを出したいがために無理やり出してきたような気はするんですが、実際これ今日示してましたけど、示したのって本当に並び方が一緒ですよねと、中山先生が意見書で言っているものよりも、もうちょっと並び方が9個ぐらい並んでるじゃないですかっていうための証拠として今日、示したわけなんですが、全体は先ほど申し上げた三段構成に彼らはしていて、我々一段目と三段目についてまったく根拠がないということについて中山先生がご説明いただいたと理解しています」
一場弁護士「立体構造ってちょっと多分イメージがしにくいと思うので、これ、中山先生の意見書に貼ってある図なんですけれど、ここにこう細胞膜があって、ここからこう出ていると、ここにこのリボンみたいなのが見えると思うんですけど、ここにぐにゃぐにゃぐにゃになって回っているものが、非常に複雑な構造をしていると。ここにどう引っ付くかっていうのが今問題になっていて、高橋先生のご意見はいわゆるこのリボンみたいなのをピーンと伸ばして、そのうちのここの部分と同じだから引っ付くつくんじゃないの?って言っているけれど、中山先生のご意見はこの複雑になっているところの内側に入っちゃってるから、それ引っ付かなないんじゃないの?っていう非常にざっくり言うと、そういう話を今日していたと思います」
――図で見ないとなかなか理解できないですよね
一場弁護士「そうですね」
GSK代理人の会見
池田裕彦弁護士「お時間いただきましてありがとうございます。MSGさんの持ち時間の残りのところをちょっと使わせていただくってことで10分とかぐらいで終わりたいと思いますが、今日の中山先生の反対尋問を受けましたGSKとしての会見をさせていただきます。皆様から向かって右側から山田、池田、秋田、大森でございます。よろしくお願いいたします。今日の尋問の意義につきましては、MSDさんからご説明があったと思いますので、それを前提にですね、ご質問あればお受けしたいと思います。よろしくお願いします」
鈴木エイト
――COIについて質問した原告側の狙いについて。実際にどちらか忘れましたがGSKから研究費や講演料が支払われていたとして、裁判の証人に出廷する人に対してCOIが問われるってことはありうるんですか?