『HPVワクチン』裁判、本人尋問で示された壮絶な家庭環境

昨年8月に『SlowNews|スローニュース』に寄稿したHPVワクチン裁判レポート は反響を呼んだ。HPVワクチンをめぐる人々の認識が変わる潮目になるのか。さらに翌9月に行われた別の原告への反対尋問ではカルテに記された壮絶な内容、家庭内で10代女性が置かれていた過酷すぎる環境が明らかとなった。翌月の取材内容を反映させ加筆、再掲する。(サポートメンバー限定記事ですが、後日、読者限定記事にします)
鈴木エイト 2025.02.16
読者限定

「接種後に重篤な副反応を引き起こし、薬害として集団訴訟が起こされている危険なワクチン」

 そんな認識をいまだに持つ人も少なくないHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)。だが、HPVワクチンについては国内外で有効性と安全性を担保するエビデンスが積み上がってきたことは、意外に知られていない。

 例えば日本では、名古屋市で行われた3万人規模の疫学調査「名古屋スタディ(No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study)」によって、接種群と非接種群に有意差(症状のオッズ比〈相対危険度〉で有意に1を超えるもの)がなかったことも確認されている。

 そんななかで、「HPVワクチン薬害訴訟」を継続的に取材する私(鈴木エイト)が2024年8月上旬に発信したX(旧Twitter)での原告女性への本人尋問の傍聴レポートが2000万回近いインプレッション数となり話題になった。

現在は、被告側申請の専門家証人への尋問が行われているが、原告女性への本人尋問が一区切りとなった昨年8月と9月の期日の傍聴レポートから、この騒動の実態を探ってみたい。

 まずは、これまでの経緯を振り返っておこう。

HPVワクチン「薬害」報道とその後のエビデンス

 HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が子宮頸がんなど各種の癌の要因であるとして、発症予防のため開発されたHPVワクチン。

 日本では2009年に認可、翌10年11月から13年3月まで「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」が行われた。同年4月に予防接種法が改正されHPVワクチン「ガーダシル(MSD)、サーバリックス(GSK)」は定期接種となり、小学6年生から高校1年生の女子を対象に積極的勧奨が行われた。

 将来の子宮頸がんを防ぐ目的で子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウイルスに感染する前、つまりセクシャルデビュー前の女性に接種することが最も効果的とされたためだ。

 だが、接種後に体調不良を訴える声が続出、13年3月に被害を訴える当事者の母親たちと日野市議の池田利恵氏が「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」を設立した。

 厚労省に「副反応疑い報告」が相次いだことで、同年6月に国はHPVワクチンの積極的勧奨を取りやめた。

「被害者連絡会」がマスコミに公開した〝不随意運動によって手足を痙攣させる少女〟の映像のインパクトは大きく、各メディアが「ワクチンによる被害」「副反応」として取り上げた。その結果、80%近くあったHPVワクチンの接種率は1%以下に激減した。

 連絡会と薬害弁護団により原告団が結成され16年3月30日に集団訴訟を行う方針を発表、会見を開き原告団に参加する「被害者」を募った。4か月後の7月28日に原告一人当たり1,500万円の損害賠償を求める集団訴訟が提起され、車椅子姿で裁判所に入る原告の映像とともに「子宮頸がんワクチンによる薬害」として各メディアが大きく報じた。

 しかし積極的勧奨中止後、国内外の複数の疫学調査や研究等による科学的エビデンスが蓄積。HPVワクチンの有用性(有効性と安全性)が確認され、厚労省は22年4月に積極的勧奨を再開した。

「キャッチアップ接種」期間延長

 一方、積極的勧奨の差し控えによって未接種となっていた世代に、今後「マザーキラー」と呼ばれる子宮頸がんに罹患する女性が爆発的に増加することが指摘されてきた。

 接種機会を逃した1997年4月2日から2009年4月1日生まれの女性に今年3月までのキャッチアップ接種/無償接種が行われていた。キャッチアップ接種については合計3回の接種に約半年の期間が必要となるため、今年3月までに1回か2回の接種を終えていれば来年3月までキャッチアップ接種の期間が延長されることになった。

 キャッチアップ接種の実現自体、産婦人科医の高橋幸子氏(埼玉医科大学)が有志の女子大生たちと行ったオンライン署名「HPVワクチンfor Me」の活動の成果でもある。

 23年4月からはより多くの型のHPV感染を防ぐ9価ワクチン「シルガード9(MSD)」も定期接種として無料接種の対象となった。HPVワクチンは子宮頸がん、膣がん、外陰がんのほか陰茎がん、中咽頭がん、肛門がんといった複数の癌や尖圭コンジローマにも効果が認められており、男児への接種の公費助成も複数の自治体で行われている。

 だが当初に、ワクチン接種後の多種多様な副反応の症状として繰り返し報じられた「腕や足の痙攣や指先の震えが止まらず、ベッドの上で手足をばたつかせながら跳ね回る少女」の映像が繰り返し報道されたことは印象深かった。同ワクチンの接種をためらう人が大多数を占めているのが現状だ。

 さらに「薬害」訴訟が現在も審理中とあっては、親が自分の子どもへのHPVワクチン接種を躊躇することも理解できる。

 一方、昨年後半にはSNSにおいてHPV接種を報告する「HPVワクチン打ったよ!ほめて!」との投稿が相次ぎ、社会現象にもなった。

統一教会が反対した子宮頸がんワクチン接種

 私がHPVワクチンについて関心を持ったのは2010年だった。

 統一教会が行っていた街頭での純潔デモにおいて「子宮頸がんワクチン助成より性倫理教育を!」との幟が立てられ、動員された信者が子宮頸がんワクチンに反対するシュプレヒコールを挙げていた。

 当時、「子宮頸がんは性的な逸脱から起こる」という誤った認識が一部で持たれており、純潔教育を教義として推進する統一教会にとって、子宮頸がんワクチンへの公費助成は教団の主義主張とは相容れないものだったのだろう。

 そんな経緯もあって、私は2018年から裁判所へ赴き「HPVワクチン薬害訴訟」の傍聴取材を続けてきた。

 取材を始めた当初、私をそれまでのメディア関係者と同様に「原告を支援する記事を書く人」と思ったのか、原告弁護団の弁護士や原告支援者を束ねる大学教授からは好意的な応対を受けた。

報じるうち、冷淡な対応に

 だが、私が法廷で目にしたことを含め、原告側にとって都合の悪い質問(カルテ開示の送付嘱託についてなど)を原告弁護団の会見で行い、その内容をSNSで発信するようになると冷淡な態度を取られ、期日後の報告会への入場も断られるようになった。

「メディア関係者の方がいると原告の方々が話しにくいので」

 入場を断られた理由はこういうものだった。だが、原告を支援するメディア関係者は普通に入場を認められていた。

 その後も継続して傍聴取材において体調の悪そうな車椅子の原告女性たちが“動員”されていることや、製薬会社側の会見内容を含め自分が見聞きしたことをSNSで発信してきた。

 2018年から19年にかけては、当時新宿にあったネイキッドロフトにおいて医療系のトークイベントを複数回開きモデレーターを務めた。

 昨年8月18日には、産婦人科医の稲葉可奈子氏と高橋怜奈氏、医療記者の岩永直子氏をゲストに迎え、医療系トークイベント『緊急開催!「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)と副反応」徹底検証!』をトークライブハウス・ネイキッドロフト横浜で開いた。

傍聴レポートが1000万回超の反響を呼んだ理由

 2016年の提訴後、書面のやり取りが続いた「薬害訴訟」の口頭弁論では毎回、原告代理人の要請で原告女性の意見陳述が法廷で展開された。

「スポーツや勉学に打ち込み未来への希望に満ちていたがワクチン接種後の重篤な副反応で夢と希望が打ち砕かれた」

 こんなナラティブベースの意見陳述が原告側の法廷戦略として採られ、法廷内には車椅子に座る体調の悪そうな原告女性たちが毎回並べられた。被告側の製薬会社代理人弁護士を睨みつける原告女性の姿を見て、憎悪の感情が体調に影響しないか、心配になった。

 2023年5月18日の東京地裁の口頭弁論期日から原告側専門家証人6人の証人尋問が行われ、同年12月18日の大阪地裁で6人全員の尋問が終了した。2024年1月から原告の本人尋問が始まり、同年9月の大阪地裁で一旦終了となり、被告側専門家証人12人の尋問が翌10月の福岡地裁の期日から始まっている。

 昨年8月7日に東京地裁の大法廷で行われた原告3人の本人尋問。法廷における主尋問及び反対尋問、裁判所内の司法記者クラブでも原告代理人と製薬会社2社の会見内容をX(旧ツイッター)に投稿した。

「本日の東京地裁でのHPVワクチンを巡る集団訴訟で原告のうち3人の本人尋問が行われたのですが、反対尋問が衝撃の内容でした。このあと、順を追って報告します。#HPVワクチン」

 このポストが1,000万インプレッションを超え、ツリーの総インプレッション数も2000万回近くとなっている。

 何がこれほどの反響を呼んだのか。それは原告への製薬会社代理人による反対尋問の内容があまりに衝撃的だったからに他ならない。

ワクチン接種前の原告女性の医療記録(カルテ)に記されていたものは…

 主尋問の本人尋問では、原告代理人が事前に打ち合わせた内容を質問するため、おしなべて原告の意見陳述に沿った内容が再現された。

 つまり、〝HPVワクチン接種前は勉強とスポーツが得意で将来への希望に満ちていたものの、ワクチン接種によって体調不良となり、ワクチンの後遺症で勉学や就職もままならなくなって夢と希望が打ち砕かれた〟という内容だ。

 だが、製薬会社(GSK、MSD)代理人の反対尋問では、ワクチン接種前に原告が受診していた医療機関の医療記録(カルテ)などから、原告女性たちには家庭内や学校でのトラブルなど複数の心理社会的因子があり、様々な既往症があったことも指摘された。

 最初の原告はワクチン接種前の医療機関(心療内科)のカルテに「トラウマ」「進学のプレッシャー」「リストカット」と記載があり、ワクチン接種後、体調不良を訴えたあとに以下のことを行っていたという質問と確認があった。

「車の免許を大学1年の時に一人で合宿に行って取得」「飲食店やコンビニで長時間の立ち仕事のアルバイトをしていた」「現在は夫と乳児の3人暮らしで保育園の送り迎えは原告本人が行っている」

 次の原告も症状に視野障害があることについて、接種後の医療機関のカルテに「母から元々神経が弱くストレスで視野が狭くなる」と記載があり、以下の指摘がなされた。

「ニュージーランドへホームステイをしていた」「公共交通機関を挟み30分歩いて高校に通学していた」「学園祭で和太鼓を叩いていた」「ソフトボールでボールを投げバットを振っていた」

「HPVワクチン被害者としてやめたい」

 最も衝撃を受けたのは3人目の原告への反対尋問だった。

 原告代理人による主尋問の際、ワクチン接種前のことを「健康そのもの」と答えていた原告女性に、製薬会社代理人弁護士がカルテを基に以下の指摘を行った。

・ワクチン接種前 「小2の時に両親が離婚、母が再婚した義父の酒癖が悪く暴れた」 「義父が母親を殴り仲裁に入った原告も殴られた」 「小5で過呼吸、小6で母親が義父と離婚、母親が兄と原告を連れて家を出た」 「仲の良かった兄が大学進学で別居」 「中学で不登校に」 「同居する祖父が認知症になり、原告の母親が祖父のお金を盗ったなどの被害妄想が始まり、カルテに“祖父に対応しなくてはならず大変でした”と記述」 「学校でトラウマ、登校拒否に」  「過換気症候群(思春期外来)」  「母親が実父と再婚」 「祖父が躁鬱病・双極性障害、暴れたりした。その後、自死」

・ワクチン接種後 「注射や薬で嫌な反応なし」 「強い抑鬱、異存」 「不思議の国のアリス症候群」 「自殺念慮」 「統合失調症」 「ひと月前から悪化/雨も降っていないのに土砂降りの雨音が聴こえる。同様のエピソードとして『中2の時に雨が降っていないのに雨が降っている音がする』と母親が問診票に記術」 「対人不安」 「心の底・不安や恐怖心」 「人格統合」 「自我・精神病レベルの考慮も必要」 「小5の時から自分の体が勝手に移動するような体験、それが最近現れるようになった(精神科)」 (精神科に入院)「実父が子どもに無関心でパチンコに夢中『私に関心ないのでは?』」 「仙台に良い思い出がない」 「入院が精神疾患・統合失調症になる不安」 「明るいキャラ作り、疲れる」 ( 大学病院の精神科の心理検査/心理テストで)「小1からすべてやり直したい」

 2016年、原告女性は大学病院で認知行動療法を受けようとした。しかし全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会の池田利恵事務局長から紹介された静岡てんかんセンターで、一部の医師が主張するHPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)と診断を受け、さらに医薬品の健康被害救済を行うPMDA(医薬品医療機器総合機構)から認定を受けたことによって、認知行動療法を受けないことにしたという。

 認知行動療法を受けない選択をした理由をGSK代理人から訊かれた原告女性は「認知行動療法では治ると思っていなかった。HPVワクチン被害者としてやめたいと言った」「ワクチンが原因だと思っているので」と答えた。だが、この大学病院のカルテには副反応診断を否定する記述があったことも示された。

「彼女たちが嘘をついているとは思っていない」

 閉廷後に司法記者クラブで行われた会見の内容も投稿した。

 GSK代理人は会見で、〝原告の症状はHPVワクチンとは関連性がなく転換性障害や機能性身体症状といった社会心理的因子による様々なストレスから生じる疾患である〟と、各メディアの記者に説明。

 私からは毎回法廷でGSK代理人の池田裕彦弁護士が証人席の原告を見つめる視線が気になっていた。何かを読み取ろうとしているのではないかと思い、訊いてみた。以下はその際の池田弁護士の返答である。

「辛いだろうなと思って見ているんですけど、我々は彼女たちが嘘を吐いているとか詐病とは思っていないんです。おそらく症状はあると思うんですよ。ただ、それが周りのいろんな大人たちによって、それは医師であることもあり、様々な人たちによって”ワクチンによってそうなっているんだ”という風に思い込まされていると思うんです。最後の方なんて本当に壮絶な人生を送って来られていて、それをもう一回法廷でほじくり出されてるっていうか、それはご本人とっては辛いだろうな、可哀想だなという気持ちで見ています」

 MSD代理人の会見でも、〝カルテから原告の症状が思春期の世代に見られる疾患であり、HPVワクチンとは関係のない心因性その他の要因によるもの〟との説明があった。

 両製薬会社とも、原告が正しい診断と適切な治療を受けることが重要だと言及している。

なぜ大手メディアは継続的に報道しないのか

 製薬会社の会見の前に原告弁護団が会見を行ったが、原告弁護団、製薬会社2社の会見に参加していた司法記者クラブ加盟社の記者は4人のみで、私のほかは原告の支援者メディア関係者が数人いただけだった。

 提訴時には大々的に報じた大手メディア各社だが、訴訟の経過を継続して追っている社は皆無だ。そのことによって正確な情報が世間に伝わらず、いまだに「危険なワクチン」との認識が根本的に改まることがないとい言える。

 原告弁護団の会見場に記者は少なく、閑散としていた

「被害者に寄り添う報道」は当初の各メディアの報道姿勢として間違ってはおらず、重要である。しかし視点を変えれば、誤った方向への感情移入が問題を複雑化させてきたとも言える。

 訴訟の経緯を原告サイドに肩入れせず、客観的に事実ベースで伝えているのは私ひとりというのが2024年時点での状況だった。

 メディアは当初の副反応報道が、その後、どのようなハレーションを起こしてきたのか検証すべきである。

 当時、読売新聞のヨミドクターの編集長だった岩永直子氏は、昨年「HPVワクチンについて肯定的な報道をしたら、大手新聞社にいられなくなる時代がありました」と2010年代のメディアの状況についてSNSに投稿している。

法定内に悪意を持った人はいない

 この「誤った過度な感情移入」は一部の政治家にも言えることだ。

 原告から陳情を受けるなどして原告の支援者となった地方議員の活動が、正常なワクチン行政を阻害してきたという側面がある。HPVワクチンによる薬害であることを疑わない地方議員や国会議員が少なからず存在しているのが現状である。

 政治家が被害を訴える社会的弱者の声を聞くことは、メディアと同様、最初の段階での対応として問題はない。重要な取り組みであることは否定しない。だが、敢えて言えば、社会的弱者の声がいつも常に正しいとは限らない。政治家としては、ナラティブベースの感情論に流されず、最新の科学的知見を基に情報をアップデートしていく必要がある。

 私は2000万近くのインプレッションとなったツリーの終盤にこう書いた。

「ひとつだけ言えるのは、法廷内に悪意を持っている人は一人もいないということ。それがこの問題をより複雑にしている」

 原告弁護団(薬害弁護団)は原告の症状をみて不憫に思い、それまでの薬害訴訟で積み重ねてきた勝訴の経験から、当初は勝てる裁判だと確信していたのだろう。提訴前に会見を開いて〝被害者〟を募り、原告団を結成し集団訴訟を起こした際に「原告からの着手金なし」としたことを掴んだが、これも勝訴の見込みが十分にあるとみていたからと見ている。

 だが、その後の科学的知見、エビデンスの積み重ねによって旗色が悪くなり、勝訴する可能性が限りなく減っているのが現状である。

バランスを欠いた“両論併記”報道

 原告弁護団の複数の弁護士や原告支援活動を主導する元NHK記者の大学教授らが主要メンバーとなっている薬害オンブズパースン会議、そして前述の被害者連絡会はHPVワクチンの有用性を報じたメディアへ抗議を行った。

 このような“圧力”によって適切な報道が阻害され、バランスを欠いた“両論併記”報道がなされてきた。

 いずれ「HPVワクチン接種率の低下に起因する子宮頸がんによる死者数の増加」が顕著になるとみられている。そのときに原告の女性たちが責められることだけは避けなければならない。

 原告女性やその家族はHPVワクチンを巡る一連の騒動の一番の被害者である。被害を訴える人たちへの適切な受け皿が十分に用意されていなかったことも問題を複雑化させた要因である。原告とその家族が、責任を負わされたり、誹謗中傷に遭うことがないよう留意が必要である。

不安や懸念を払拭することはできるか

 HPVワクチンの副反応に関する情報が、世間一般レベルで更新されてこなかったことによって、ワクチン接種対象の当事者や保護者は不安を抱き続けてきた。接種によって〝重篤な副反応が起こるのではないか〟という懸念が払拭されないまま今日まで来たことになる。

 西日本の医大に通う大学生が中心となってHPVワクチンに関する「正しい情報」を伝える啓発活動を行っている『Vcan』という学生団体がある。 

 中学校や高校、大学への出張授業も行っており、ワクチン接種を強要するのではなく、適切な情報を伝えて接種するか接種しないかを各自で判断してもらうというスタンスで活動している。

 先に言及した『HPVワクチンforMe』含め当事者世代の学生たちの真摯な活動にメディアや社会がどう応えていくのか。HPVワクチン訴訟の原告女性たちをいかにして護っていくのか、われわれの社会が果たすべき役割は山積している。

(以上、記事内容を時事に沿って修正した。以下は加筆部分となる)

大阪地裁の反対尋問では、さらに衝撃的な「カルテの内容」が…

 2024年9月、大阪地裁で開かれた口頭弁論。原告女性3人への本人尋問から2名を抽出し、その内容を提示してみたい。

 この日二人目の尋問となった原告番号20番の女性への本人尋問(主尋問と反対尋問)で、前月の東京地裁での反対尋問をある意味で上回るような家庭内の因子が示された。

 まず、原告代理人による主尋問で示されたのは以下の内容だった。

・小学校では活発、健康、病院に行くのは風邪の時くらい

・中3の8月と9月、高1の4月にサーバリックス接種

・1回目の接種後に腕の痛みと腫れ、腹痛、激しい足の痛み

・2回目の接種後に足首の痛みと腫れ(杖 松葉杖)、ハンマーで殴られたような酷い頭痛、極度の疲労感、意識喪失、生理不順

・3回目接種後視覚障害、味覚障害、聴覚障害、立ち眩み、倦怠感、疲労感の悪化、睡眠障害、文字を認識できなくなる認知障害、認知機能低下により成績急落

・3回目の接種後に教室の壁が霞んで見えた。認知機能低下によって成績が下がったが、両親には信じてもらえないと思い話せなかった

・通信制高校に進学。まぶしくてサングラスを掛けた、音がうるさく感じた

・大学入学後、歩行障害、脱毛、認知症状。理解力が低下し退学

・胆嚢炎の発作、胆嚢摘出手術後も下腹部の痛み治らず。

・原告代理人からカルテに『ストレスが原因』と記載があることを訊かれた際の原告の回答「医者から訊かれたから。人間関係から悪化ない」

原告代理人

——「カルテには学校友人関係の悩みが書かれていますが」

原告「たいしたことなかった」

・家族との関係について訊かれた際の原告の回答「家族みんなでショッピングモールへ」「USJやディズニーランドに行った」「父方の祖父母にところに遊びに」「家族は仲良い方」

 GSK代理人による原告25番の女性への反対尋問。この期日の前回、傍聴取材を行った東京地裁での3番目の原告の反対尋問の内容も衝撃的だったが、この日、示された内容は、さらに衝撃的だった。

 GSK代理人は原告の医療記録(カルテ)などから、家庭や学校における原告女性を取り巻く状況とその問題点を指摘していく。

~サーバリックス接種前~

・小3(8歳)時のカルテに『腹痛、白色便』『小1から意識消失』との記載。GSK代理人から記憶があるか訊かれた原告女性は「ありません」と返答。脳波検査のカルテには『学校ランドセル重く低身長』『たちくらみ』『激しい腹痛』と記載

・小4時のカルテに『めまい、立ち眩み、耳鳴り』『学校生活に疲れた』等の記述があることを訊かれた原告女性は「気にしていなかった」「母が心配性」と返答

・小4時のカルテに『頭痛』『ふらつき』『浮遊感』、耳鼻科のカルテに『心因性要素が大きい』との記述。原告女性は「記憶ない」と返答

・カルテに母の言葉『小4は体調悪く、あまり学校に行けなかった』

・小5時のカルテに『腹痛と吐き気』『側頭部と後頭部頭痛』『家にいる時、胸の痛み』『過呼吸の症状』の記述

・カルテに、家庭環境について『母に離婚勧めていた』『夫婦仲』『父が母に暴力』『回し蹴り』との記述。GSK代理人から「覚えていますか?」と訊かれた原告女性は「曖昧な感じ」と返答

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続きは、8077文字あります。
  • 裁判所記者クラブでの記者会見
  • 改めて雑感

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