HPVワクチン訴訟(名古屋地裁)傍聴&会見レポート
原告弁護団の報告「あまり心配せず反対尋問を楽しみに」
午後1時、裁判所の西南角に集まった原告支援者たちへ原告弁護団が報告を行った。
名古屋弁護団代表 堀康司弁護士
「この裁判は2016年からやっておりまして。2010年から13年ごろに〝子宮頸がんを予防できる〟との触れ込みで国が大量の公費を使いながら、当時中高生だった女性に接種を進めた。その結果、多くの女性に免疫介在性の神経障害と考えられる重たい症状が出て、今なお多くの方が体調不良に苦しんでいらっしゃると、そういう問題をこの裁判で戦っています」

原告支援者へ報告する堀康司弁護士
「昨年は全国で合計27名の原告さんが原告本人尋問ということで4つの地方裁判所の法廷で、ご自身が体験されてきた被害の深刻さ、そして何よりも今の症状についてきちんと調べてもらって、本質的な治療法を(確立して)ほしいと願ってらっしゃる。そういった切実な思いを、それぞれの方が経験してきた体験をベースとしてお話いただきました」
「本日は名古屋で二人目の(被告側申請専門家)証人が主尋問として話します。中山哲夫さんというウイルス学を専門とする小児科ベースのお医者さんです」
福岡地裁で1月20日に被告側専門家証人への反対尋問を行った原告代理人弁護士

「被告は高橋医師の研究になんとか反論しなければいけないと思っている」と熱弁する原稿代理人弁護士
「難しい議論が続いていく中で傍聴席で聴いていただいても、〝なかなか難しいな〟と思われて、また原告側で証言いただいた高橋先生や鳥越先生を批判するような話が出てくるであろうと思われますが、あまり心配されずに聴いていただければと思います。九州で証言された 証人はスペクトの専門家の証言でしたが、スペクトももちろん原告らの被害者の方たちの症状というのが脳血流の〇〇があるのだというのが所見ではあるのですが、それ以上に○○の抗体が出ているというのはやっぱり原告の被害者の症状が免疫性の中枢神経障害なんだということを示す重要な科学的所見であって、やっぱりそこについて、被告側は非常になんとか反論しないといけないということで必死になって今日も中山証人が、そして3人目の被告側専門家証人の奥村先生という方がこれもまた高橋先生に反論すべく意見書を出しています。それだけ高橋先生の研究というのが被告にとってなんとか反論しなければいけないと思っていると。今日、主尋問でいろいろ言われると思いますが、あんまり心配せずに次回の反対尋問を楽しみにしていただければと思います」

入廷行動を行う原告弁護団と支援者
主尋問でも紛糾場面(傍聴メモから)
この日の傍聴券の枚数は66枚、抽選に並んだ人は30人弱だったため全員が入廷できた。名古屋地裁は司法記者クラブの記者が毎回、傍聴に来ている。これは他の地裁では見られないことだ。
例によって、法廷でのやり取りは傍聴したたぬきち医師が詳細なレポートを書かれているので参照してほしい。
たぬきち氏よりは簡易ではあるが、私も法廷内でのやり取りを傍聴メモから簡単に記しておこう。
この日、出廷した被告側製薬会社2社から申請された専門家証人は北里大学・大村智記念研究所名誉教授の中山哲夫氏。
主尋問を担当したのはMSD代理人の弘中聡浩弁護士。
法廷メモから中山哲夫証人の返答を中心に、以下、書き出してみる。
・ウイルス学、感染・免疫研究部門で働いている
・(動機について)麻疹や風疹で子どもが肺炎や脳炎で亡くなり、辛い思いをしてきた。ワクチン開発にかかわった。副反応への誤解があり、ワクチン研究から北里大学で勤務
・(ワクチン一般の効果について)免疫で感染を抑える。感染しても重症化を防ぐ。ワクチンは異物、「自然免疫応答」「獲得免疫応答」「細胞性免疫応答」「キラー細胞」「サイトカイン」「獲得免疫誘導」
・細胞免疫機能、感染の拡がりを抑える
・(HPVは人の免疫にどのような特性が?)粘膜感染、細胞の中に潜んでいる。抗体ができるまでに6~8か月かかる。抗体レベル低い
・(どう防ぐか?)IgG抗体ができて感染を抑える
・(他の類似ワクチンについて)HPVウイルスは粘膜感染、同じくインフルエンザも人の皮膚の粘膜に。IgG抗体が染み出し、重症化を抑える
・(抗体が血液中高くなると人の身体に悪い?)高い抗体維持のために、生体に悪さをすることはない
・(根拠は?)HPVワクチン以外も高め状態を保つが重症化の報告はない
・(副反応は生じるか?)自然免疫応答、別箇ではなく、目的は獲得免疫。発熱、局所の痛みは一過性のもの
・(原告らが主張する全身の多様な症状を裏付ける医学研究はあるか?)「ないと思う」
・(サイトカインによるというエビデンスについて)「何か月も続くことはない」
・(前身の多様な症状の研究は?)「マウス実験ではある、局所のサイトカイン、3時間から1日がピーク、5~7日で検出されない」
・(HPVワクチンによる自己免疫疾患だという疫学研究は?)「エビデンスを示すものはない」
・(アルミニウムアジュバントが自己免疫疾患を引き起こすことはあるか?)「1940年から使用されているが副反応報告はなく安全性が確立
・(荒谷医師による百日咳毒素を使ったマウス実験によるHPVワクチンの危険性を主張する研究がリジェクト〈撤回〉されているが、因果関係の根拠となるか?)「全然関係ない。マウスにHPVワクチンと百日咳毒素を一緒に投与することは人には行わない」
・(鳥越俊彦医師の調書では〝ワクチンのアジュバントは危ないものではなく自己免疫疾患のリスクはない〟としているが?)「同じ意見です」
・高橋幸利医師は2016年の研究で、HPVワクチン接種後に脳脊髄液に炎症が生ずる可能性を主張しているが、因果関係は導き出せるか?)「対照群として打っていない人の症状を調べていないため、因果関係に言及できないもの」
・(高橋医師の論文での検体は?)「HPVワクチン接種者の髄液」
・(信頼性について影響は?)「別の実験結果を合わせている」「同じ日ではなく何日か後、正しい検査ではない。検体は同時が必要」
・(リンパ球の採取は何時間以内に?)「長くても6時間、検査にばらつきが出ている」
・(高橋医師の説明は?)「検体採取の記載なし。詳しい記載はない」
「一見、HPVワクチンが高そうに見えるが、明らかに差があるとは言えない」
「炎症反応は起こしていない」
「検査のやり方が書かれていないので評価できない」
「幅の中に入っているので有為差ない」
弘中弁護士が中村証人の返答を「それは~ということですね」と尋ねた場面で、原告代理人から「異議あり!誘導です!」と声が挙がる。
弘中弁護士は「私の認識が正しいか、確認していた。原告代理人の先生も同じことをしているでしょう」と反論。裁判長は「そのまま、続けてください」
・(高橋医師の論文におけるHPVワクチン接種者では炎症が生じているとの主張は正しいと言えるか?)「高橋先生の主張は誤っています」
・高橋医師の主張「HPVワクチンによって人の身体がTh2シフトや液性免疫に影響を与えている」について)「起こっていない」「軸がズレている」
・(~について高橋医師の論文の医学的根拠は?)「どこにも書かれていない」
・(海外の複数の研究や国外のシステマティックレビューが高橋医師との研究とどう違っているかについてのやり取り)
「高橋先生の論文では、〇〇〇〇ではコントロール群と差がなく、〇〇と〇〇の比較もありません」
「偽陽性の危険性がある」
・弘中弁護士が、中山証人の返答について裁判長へ説明を始めたタイミングで原告代理人弁護士から「異議あり!」の声が挙がる。裁判長は「理解しているので大丈夫です」と尋問の進行を促す。
・(2020年の高橋医師の論文や研究がどういった内容で何を確認したものかについて)「人には通用するようなデータではない」「あまり意味はない」「アクティブな抗体を見ていない」
・(高橋医師の研究手法の問題点を指摘)「N2について検討しても意味はない」
・(原告が主張するHPVワクチン接種における分子相同性仮説について、交差免疫応答が生じるというデータがあるのか?)「タンパクと分子相同性があるからといって交差免疫応答が生じるというデータはない」「これをもって分子相同性あるとは言えず、交差免疫応答を示すものではない」
・(原告の主張の根拠としている鳥越医師の主張について)「鳥越先生は、EBウイルス(EBV)の感染という特異的なエボラウイルスでEBV抗体を作る『交差免疫を起こす』ことを示している」「EBウイルスに特異的なもの」「HPV(ヒトパピローマウイルス)は体細胞変異を起こすウイルスではない」
・(結論として、2016年と2020年の高橋医師の論文についてHPVワクチンと原告らが主張する多様な症状との関連性は証明されたか?)「高橋先生の論文は因果関係に言及できないと思う」「異種の疾患がたまたま起こったもの」
・(臨床の基礎的な医師としての思いは?)的な確定診断として、原告の主張はどうでしょうか?
「病気の基となるのは診断の根拠。抗体の診断について確立されているものでないと病理のミスリーディングが起こる。ちゃんとした病理診断。空白の時間、HPVワクチンが使われなくなった10年、子宮頸がん、HPV感染している可能性。10年間の空白、30~50年間で追いつけるか、しっかり〇〇に対して、今まで証明されている方法で証明すべき」
・(海外の状況、安全性について)「日本の影響もあり、海外でもデンマークでもセンセーショナルな報道があったが、国が大規模な疫学調査を行い因果関係なしとなった。WHOでも、HPVワクチンの有効性と安全性は結論付けられている」
司法記者クラブでの会見
閉廷後、MSD、GSK,原告代理人が裁判所内の司法記者クラブで会見を開いた。