スクープ!統一教会が解散命令後の残余財産1000憶円を実質吸収した他の宗教法人の所有へ

東京地裁から解散命令を下された統一教会。だが、すでに清算後の残余財産を関連宗教法人へ帰属させる手はずを整えていたことが判った。1000憶円に上る莫大な資産、教団が採った狡猾な手段とは? 表向きには「全ての財産が没収され、教会もなくなる」と主張する田中富広会長、その裏で何が行われていたのか、教団の論みと欺瞞性を記す。
鈴木エイト 2025.03.29
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 私はこれまでも教団の法人規則の内容から数百億円に上る清算後の残余財産が関連宗教法人に移されてしまうのではないかと指摘してきたが、地裁の決定文の記述から、その懸念が現実化することになる。

 教団は16年前、霊感商法の摘発が教団本部へ及ぶことを想定、宗教法人の解散となった際に、実質的に吸収状態にあった別の宗教法人へ莫大な資産が自動的移るようにしていた。その狡猾な手段とはいかなるものだったのか。

 教団が文化庁に届けていた残余財産に関する規則の内容も判明した。解散後、約1000憶円に上る資産の行方はどうなるのか。このままでは、被害者救済に使われず、教団の延命に使われることになりかねないのだ。

2009年の霊感商法「新世」事件で危機感、解散後の教会施設と1000憶円はそのまま別の関連宗教法人で所有か

 2009年2月、統一教会系の連関商法会社「新世」が警視庁の摘発を受けた。2月10日、渋谷駅近くの雑居ビルに事務所を構える統一教会系の印鑑販売会社「新世」が、特定商取引法違反(書面不交付)容疑で警視庁公安部から家宅捜索を受けた。渋谷駅周辺で声を掛けた複数の女性に、「先祖の因縁から家族に不幸が起こる」「このままだと死にますよ」などと不安をあおり高額な印鑑を売りつけた容疑だ。

 相次ぐ霊感商法販社の摘発に危機感を抱いた教団は組織防衛を図る。教団学生組織のトップや海外布教拠点の責任者などを歴任し、前年に日本の組織のトップとなった徳野英治会長が2月12日に「信者らの活動に対する事件報道について」、3月25日に「教会員の献金奨励・勧誘活動及びビデオ受講施設等における教育活動等に対する指導について」と題した2つの通達、「コンプライアンス宣言」を全国の教会指導者(地区長、教区長、教域長、教会長)に向けて発出し、教団のHPに掲載した。

 組織的な不法行為を末端の信者へ責任を押し付ける欺瞞的なものであり、教団本部の責任逃れと、警察やメディア、そして宗教法人を管轄する文化庁への対策で発出されたものだ。

 同年6月11日、警視庁公安部は有限会社「新世」の社長と営業部長、そして勧誘員の女性5人の計7人を特定商取引法違反(威迫・困惑)容疑で逮捕。2月の「新世」への強制捜査で押収した資料から、新世が教団に販売実績や顧客情報を報告していたことが判明し両者が密接な関係にあるとみた警視庁が教団本部の向いにある渋谷教会や南東京教区事務所に家宅捜索を行った。統一教会本部に激震が走る。

「これは教団本部への強制捜査もあり得る」

 この教団本部への家宅捜索は警察官僚出身の有力な政治家の口利きによってストップが掛ったとされるが、教団本部は解散命令請求から解散命令へと発展することを惧れ、ある決議を行う。

 家宅捜索の12日後の6月23日に責任役員会と評議員会議を開き、宗教法人解散後の残余財産の帰属先を実質、統一教会が吸収していた北海道に本拠地を置く仏教系の宗教法人である天地正教へ帰属させるという決議を行っていたのだ。

 先を急がず、まずは宗教法人法の規定を見てみよう。

宗教法人法では「残余財産」はどうなっているのか

 宗教法人の解散後の残余財産の処分、つまり宗教法人解散の清算手続きにおいて、債務を弁済した後の残余財産については宗教法人法第50条にこう規定されている。

(残余財産の処分)

第五十条 解散した宗教法人の残余財産の処分は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除くほか、規則で定めるところによる。

2 前項の場合において、規則にその定がないときは、他の宗教団体又は公益事業のためにその財産を処分することができる。

3 前二項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。

 当該宗教法人が事前に規則を定めて文化庁に届けている場合はその規則の内容が最も優先される。規則を定めていない場合は、他の宗教法人や公益事業に、そしてこれらの規定で処分されない財産は国庫に帰属すると定めている。

統一教会の規則には「天地正教」の記載なし

 では、統一教会のケースはどうなっているのか。統一教会は文化庁に「残余財産の処分」についての規則を届け出ている。当該規則を入手した。そこにはこう記載がある。

「残余財産の帰属 第30条 この法人の解散に伴う残余財産は、国若しくは地方公共団体又は他の宗教法人のうち、責任役員会において、その定数の三分の二以上の多数の議決及び評議員会議においてその総数の三分の二以上の多数の議決を経て選定したものに帰属する」

 私は予てから、この規則によって統一教会解散時の清算手続き後の残余財産が、例えば教団の関連宗教法人である天地正教へ移されてしまうという可能性があるという懸念を表明していた。

解散命令の決定文で発覚、1000憶円以上の資産、教会などの不動産と現金がそのまま関連宗教法人へ

 そして今回の解散命令の決定文を3月26日に入手し、3年前の時点で教団が現金820億円を含め1136憶円の総資産があること、そして清算後の残余財産の帰属先が天地正教とする記述があることに気付く。

>令和4年3月末の総資産は約1136億円であり、この総資産のうち現預金が820億円を占めている。

>利害関係参加人(註:統一教会のこと)は、平成21年6月23日、責任役員会及び評議員会議において、残余財産の帰属先について、北海道帯広市に主たる事務所を置く宗教法人である天地正教とする決議を行った(規則30条。法50条参照)。天地正教は、昭和62年12月に設立され、その目的は、「この法人は、弥勤菩薩を本尊として、天地正教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを目的とし、その目的を達成するために必要な業務を行う。」とされており、 32件の民事判決の中で献金先等として認定されたことのある宗教法人である。

 統一教会は今も1000憶円以上の総資産を持っていること、そして清算手続きは現金・預貯金から弁済に充てられるため、現状最大でも数百億円で済んでしまう計算となる。清算手続きにおいて現金・預貯金で足りない場合に不動産を現金化して弁済に充てるという順序となる。つまり、現状の教団の総資産と債権の総定額からして、清算手続き後は教会、本部ビルなどは手つかずで残ることになる。

 統一教会が16年前の霊感商法事件の際に宗教法人清算後の資産1000憶円を関連宗教法人へ帰属させる決議をしていたのだ。

ラジオ番組で指摘、教団会見へ

 懸念が現実化していたことを知り、驚愕した。そのことを同日(3/26)の20時から出演したTBSラジオ「荻上チキ・Session」の中で指摘し、X(旧Twitter)においても投稿した。おそらくこれが、この案件に関する最初の指摘だったと思う。

 翌27日に統一教会の田中富広会長が日本外国特派員協会(FCCJ)で会見を開くことが判り、FCCJへ会見参加を申し込んだ。25日の教団本部での会見では私は教団サイドから入場を拒否されており、直接、追及できる機会は貴重である。

 3月27日、FCCJに行き、田中富広会長と教団幹部の近藤徳茂氏の会見を取材した。

 FCCJ関係者によると、教団サイドは私が会見に参加することを拒んだという。だがFCCJは特定のジャーナリストを排除するようであれば会見自体を開くことはできないと拒否。すると教団サイドは、私を会見に参加させることは構わないが質疑応答の際に質問者として当てないよう言ってきたという。

質疑応答で田中富広会長を追及

 会見が始まる。田中富広会長の発言は政治家との関係を始め、被害者アピールを続ける従来からの主張を踏襲した欺瞞的なものばかりだったが、私が最も気になったのは以下の発言だ。

 田中富広会長

「今回の決定では、法人の解散の効果は法人格の喪失にとどまり、信者の宗教上の行為を禁止制限するものではないといっていますが、果たしてそうでしょうか。岸田前首相に追従したと言える官僚達によって法人の全ての財産は没収されることになります。十万人もの私たちの信者が集まる協会も施設も失うことになります。信徒の宗教活動の自由は深刻な制限を受けることになります」

 質疑応答の時間となった。まずFCCJ会員が優先して指名される。FCCJのモデレーターは一通りFCCJ会員からの質問者が終わった後、手を挙げる私を最初に指名した。

鈴木エイト

「田中会長は、先ほど〝解散が確定すると全ての財産が没収される、10万人の信者が集まる教会も施設を失うことになる〟とおっしゃいました。解散命令の決定文に2022年度の期末に1136億円、教団が持っていて、そのうち現金が820億円あると書かれています。現在、統一教会被害弁護団の集団調停で請求している額が約60億円、今後、被害弁償が最大100億円だと仮定しても1000億円以上が余ることになります。その場合、実は統一教会は2009年6月23日の段階で責任役員会を開いて、もともと文化庁に規則を届けているなかで解散決定時の残余財産は国、地方公共団体あるいは他の宗教団体、このうち責任役員会、(及び評議会)の議決で決めたところに選定すると。この3つのうちどこかに帰属するってことを始めています。年齢化が行われて、6月12日、教団本部のすぐ目の前の(ビルに入る)南東京教区事務所(や渋谷教会)に警察(警視庁公安部」の家宅捜索が入った段階です。その10日後に責任役員会を開いて残余財産の帰属先を天地正教にすることを決議しています。天地正教の代表者(代表役員)は教団の信者です。もともとその時点で残余財産の帰属先を関連の宗教団体(宗教法人)に移管させるということ、解散命令が決まった時、その段階で前もって手を打っていたのではないですか?」

 私の追及に対する田中会長の回答は以下の驚くべきものだった。

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